湯を沸かすほどの熱いポエトリースラム──PSJ2019銭湯大会を振り返る──

喜楽湯看板猫・たたみちゃん(もんのすごくかわいかったです)

前回のエントリでは、「ポエトリースラムジャパン」前史として、ジャッジの方法に着目し、詩のボクシング・新宿スポークンワーズスラムのことを紹介しました。ちょっとまじめな概説でした。
この記事を書こうと思った直接のきっかけは、6月に行われたポエトリースラムジャパン2019年大会の予選のひとつ、「銭湯大会」です。2019年6月15日(土)に行われました。もう一か月たったなんて聞いてない!ということで、一か月遅れの振り返りを書こうと思います。

言葉のピースフルな戦闘インザ銭湯!

銭湯大会が行われたのは、埼玉県川口市「喜楽湯」。
1950年代から続く老舗の銭湯ということですが、ロゴやイラストレーションなどを通じたブランディングが上手だなあ、という印象をもっていました。
それもそのはず、喜楽湯の中の人たちは、「東京銭湯」というウェブメディアを運営する中の人たちでもあったのです!
東京銭湯、わたしも大変お世話になっております。東京銭湯を見て、清水湯(表参道)、ふくの湯(本駒込)、文化浴泉(池尻大橋)、行きました(この記事を書いている時点で、高円寺の小杉湯にも行きました)。

いざ銭湯

会場に入ると、想像以上に銭湯。

いやわかってたけど、そりゃそうだけど銭湯。男湯・女湯の脱衣場の間仕切りを取り除き、ライブスペースに。椅子は、お風呂で使うプラ製の椅子です。

進行とタイムキープは、ポエトリースラムジャパン代表・村田活彦a.k.a.MC長老と、PSJ銭湯を共催する胎動LABELのオーナー・ikomaさん。

DJ K.T.Rさんによる「銭湯」「お風呂」縛りのBGMも楽しかったです。水曜日のカンパネラ「ディアブロ」、かぐや姫「神田川」、坂本龍一・U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS「エナジー風呂」、キュウソネコカミ「OS」などなど。いやあ、お風呂の歌ってたくさんあるんですな……


銭湯という、街のコミュニティを作る公共空間がそうさせるのか、スラム特有の緊張感も少し和らいだ感じがしました。

銭湯大会のルール

ポエトリースラムジャパン銭湯大会(以下、PSJ銭湯)は、12人制のスラムです。

1回戦:A,B,Cの3つのブロックで4人ずつに分かれ、1回ずつリーディングをする。1ブロックあたり、観客の挙手が最も多かった1人が勝ち抜ける
2回戦:A,B,Cの3つのブロックからそれぞれ勝ち上がってきた3人が、2回ずつリーディングをする。2回のリーディングが終わった後、観客の挙手が最も多かった1人が優勝

観客の挙手には、赤・青・黄・緑のカードが1枚ずつ使われます。
観客全員に、これら4枚のカードが渡され、ジャッジでは、1番目の出場者:赤、2番目:青、3番目:黄、4番目:緑がそれぞれ相当します。これが、前回のエントリで紹介した「観客全員参加」方式です。

出場者の振り返り


と、いきたいところですが、さすがにだんだん忘れてきているので、一部の方だけになってしまいますが紹介を。

狂人さん
スラムの火蓋を切って落としたMC。ソリッドな力のあるテキストを次々たたみかけるリーディングでした。未来について想像することで、今ここにいることを確かめるようなテキストでした。

MI'zさん
Ultra Yakaratic MC'sというヒップホップクルーで活動されているMCで、一回ライブを拝見したときはなんて恐ろしいお兄さんたちだろうと思っていました(実際はとてもにこやかな方です)。あわや棄権か!?と誰もが思ったすんでのところで会場にすべりこみ会場の喝采をかっさらう。そして、持ち時間の3分間を謝罪に使うという……なんともはや……申し訳ないけど楽しかったです!!

多嘉喜さん 
ネット番組「ワードスクランブル」(今はちょっとお休み中)を一緒に作っているラッパー。詩を書くとどんな感じになるかよく知らなかったのですが、身体の生理的な感覚に肉薄するようなテキストが新鮮でした。

maiさん
淡々と、言葉を置いていくシンプルなリーディングのスタイル。終盤、「わたしはすべてうまくいっていた」の一行で、ストンと肚落ち。

仲西森奈さん
対話と独白を行き来するような、時間と場所が揺らぐテキスト。スラム終了後に聞くところによれば□□□(クチロロ)の中の人ということで、バンド形式でも聴いてみたくなりました。

わたしはBブロック1回戦で「シネマ」を読み、勝ち抜けて決勝へ

1回戦と決勝の間に、向坂くじらさん(リーディング)と熊谷勇哉さん(ギター)のユニット・Anti-Trenchのライブがあったのですが、わたしは緊張しすぎて上の空で、ほとんどまともに聴けませんでした。後からくじらさんに「ひろかわ、ライブ全然聞いてなかったのわかったよ!(笑)」って言われました。バレてた

決勝!


決勝に進出したのは、この三人でした。

エッジさん
祖母、昔の自分=ここにいない誰か、へと語りかけるスタイルを一貫されていました。自分が抱える困難をオープンにしつつ、それでも頑張る、生きるという希望を宣言することのかっこよさ。
小長元坊さん
ラッパー・ooteeさんの戦闘/銭湯モード。ooteeさんはラップ楽曲でもドスンと強度のあるライブをされるのですが、ポエトリーリーディングでは堅い韻とブラックなユーモア、そして社会風刺を織り込んだテキストを繰り出してきます。この日も「鼻うがいのススメ」聴けました。


わたしは決勝1本目で「ターミナル」、2本目で「母に」を読みました。「母に」のリーディングの途中でボロッボロに泣いてしまい、その後の順番だったエッジさんに「人前で泣けるってすげーよ!リスペクト!」とステージ上から励ましてもらって、随分救われました。

ポエトリースラムジャパン2019年大会 ファイナリストになりました

観客ジャッジの結果、廣川ちあき、優勝しました。12月の全国大会でも、読みます。
このあと、喜楽湯のお風呂につかりました。もう、heaven's touch...とはこのことでした。途中で一緒になった地元のおばあちゃまともおしゃべりしたりして、大いに癒されました。

私はポエトリースラムジャパン2017秋大会の東京大会Cに出場していて、準決勝で敗退して、会場にいる誰よりもボロッボロに泣きました(よく泣くなア)。

スラムでめざましい戦績をあげている詩人たち、大島健夫さんや三木悠莉さんのいるグループで読んだのも、よく覚えています。

Best poet NEVER wins

ポエトリースラムにまつわる格言として、村田活彦さんや大島健夫さんから聞いた"Best poet never wins"という言葉を思い出しています。

直訳すれば「最高の詩人は決して優勝しない」です。実に含蓄に富んでいるといいますか、観客ジャッジによるポエトリースラムのゲーム性であったり、各人が何をよい詩とみなすかという価値基準はそれでもおのおの尊重されねばならないという葛藤であったり……様々な含意がある言葉です。

これを思い出すことでじゃああなたはどんな行動に移すの、と言われると、「ええと……」と口ごもるわけですが、一つ言えるとすれば、そのときそのときのスラムの結果をただただ肯定し、受け入れること、かもしれません。

PSJはひとまずファイナルシーズン。観戦に行こう。あるいは読もう

2015年から始まったポエトリースラムジャパンは、2019年大会でファイナルとなります。

最後の実施となるPSJは、12月の全国大会まで、まだまだ多くの予選が行われます。先日(7月14日)には、東京・高田馬場での予選「TOKYO LANGUAGE SLAM -Road to PSJ-」が行われ、菊池奏子さんが代表となりました。
この後も、さいたま大会西東京大会などが行われます。

各大会、趣向を凝らした工夫がされるようなので、まだポエトリースラムを見たことないよ~という方は、もしよかったら足を運んでいただけたらと思います。あるいは、初めてでも何か書いて、出場しちゃうというのも手です。PSJで初めてのポエトリーリーディングをという人は、決して少なくないのです。


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